半導体産業と新社会秩序::新重商主義ー今そこにある新たな課題

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新重商主義ー今そこにある新たな課題

1. はじめに

近年、グローバル経済の変動に伴い、「新重商主義(Neo-Mercantilism)」という概念が再び注目されている。新重商主義は、国家が積極的な産業政策や保護貿易政策を通じて経済的優位性を確保し、国益を最大化しようとする経済戦略である。本稿では、新重商主義の定義とともに、実際の社会的現象を考察し、2025年時点においてこの潮流がどのように進行しているかを論じ、将来的な展開について推論する。


2. 新重商主義の定義

伝統的な重商主義は、16世紀から18世紀にかけて欧州で広まった経済思想であり、国家が貿易黒字を追求し、富の蓄積を図ることを重視した。これに対し、新重商主義は、以下のような特徴を持つ:

2.1 重商主義の基本的特性
1. 政府の積極的な市場介入:国家が戦略産業を保護し、輸出振興政策を強化する。
2. 貿易制限の強化:関税の引き上げや非関税障壁の導入を通じて国内産業を保護。
3. 技術覇権の確保:知的財産の保護強化、技術移転の制限。
4. 国家主導の経済発展:政府補助金、国有企業の活用による競争力強化。
5. 地政学的影響力の行使:経済的手段を通じて国際的な影響力を拡大。

2.2 重商主義の再来ー第二次世界大戦前後
「新重商主義」は第二次世界大戦前後に一度見られた概念ですが、2025年時点において観察される新重商主義の流れは、第三次重商主義とも言えるかもしれません。現在の新重商主義は、単なる貿易黒字の追求だけでなく、技術覇権・データ規制・経済安全保障といった要素を含む形で進化しています。

第一次(16~18世紀)と第二次(戦後の一部)の重商主義とは異なり、21世紀の新重商主義は国家による経済統制と市場メカニズムの共存が特徴であり、デジタル技術の発展や地政学的対立がその推進力となっています。従って、現在の動きは「第三次重商主義」と位置づけることも可能です。


3. 新重商主義の再来-世界を覆う3回目の重商主義

現代社会では、新重商主義的な政策が各国で顕著に見られる。これは第三次重商主義という子tもできるだろう。その具体例として、以下の現象が挙げられる。

3.1 米中対立と技術戦争
米国と中国の対立は、単なる政治的・軍事的な対立ではなく、経済戦略としての新重商主義の典型である。米国は、中国の技術企業に対する制裁を強化し、特定の企業の成長を阻害することで自国の技術的優位を維持しようとしている。一方、中国は「中国製造2025」戦略を推進し、自給自足型の産業構造を構築しようとしている。

3.2 欧州の経済政策の変化
欧州連合(EU)では、環境技術やデジタル分野において国家主導の産業政策を強化している。例えば、バッテリー産業や半導体製造に関する補助金制度を設け、域外企業との競争力を高める動きが加速している。

3.3 資源ナショナリズムの拡大
世界各国では、自国の資源を戦略的に管理し、他国への供給を制限する動きが見られる。例えば、中国はレアアースの輸出制限を実施し、米国は重要な半導体材料の供給網を自国および同盟国で確保しようとしている。


4. 2025年時点での新重商主義の進展

2025年において、新重商主義の流れはさらに加速していると考えられる。その背景には、以下の要因がある。

1. コロナ禍後のサプライチェーン再編
- 企業のグローバル化戦略の見直し。
- 重要産業の国内回帰(リショアリング)政策の強化。
2. 米中対立の深化
- 半導体技術の覇権争いの継続。
- 防衛技術やAI開発の競争激化。
3. エネルギー安全保障の重要性
- ロシア・ウクライナ戦争を契機としたエネルギー政策の再考。
- 再生可能エネルギー分野における国家主導の投資。
4. デジタル経済の規制強化
- 欧米におけるデータローカリゼーション政策の推進。
- データ保護と国家安全保障を理由にした外国企業の規制。

5. 新重商主義の将来的展開

2025年以降、新重商主義がどのように進化するかを考察すると、以下のような展開が予測される。

5.1 ブロック経済の復活
経済安全保障を重視するあまり、各国は経済ブロックを形成し、特定の国家間でのみ貿易が活発化する可能性がある。例えば、米国とその同盟国、日本・韓国・欧州が技術供給網を独自に構築し、中国やロシアとは貿易を制限する事態も考えられる。

5.2 デジタル重商主義の進展
国家がデータを「戦略資源」と見なし、AIやクラウド技術の開発・活用を国家主導で進める動きが強まる。EUでは「データ戦略」を強化し、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)への規制を強化する可能性が高い。

5.3 環境資源を巡る競争
脱炭素社会の実現に向けて、国家は再生可能エネルギー技術やレアメタルの確保に注力し、グリーンテクノロジーの覇権を争う構図が生まれる。特に、水素エネルギーや次世代電池技術に関する競争が激化するだろう。

5.4 人的資源の囲い込み
先進国では、優秀な技術者の流出を防ぐため、移民政策の厳格化や国内教育の強化が進む。一方で、AIの発展により低スキル労働者の需要が低下し、雇用問題が新たな課題として浮上する。


6. 結論

新重商主義は、21世紀における国家経済戦略の主要な潮流の一つとなっている。2025年時点では、その影響がさらに強まり、各国の保護主義的な政策が経済のグローバル化と対立する状況が続くと考えられる。今後、技術・資源・データの囲い込みが進むことで、国家間の経済的な摩擦は一層激しくなる可能性が高い。これらの動向を踏まえた国際協調の在り方が問われる時代へと進んでいくだろう。