TOP > 評価信用社会 > 知識共創(Knowledge Co-Creation)の概念
1. 知識共創の定義
知識共創(Knowledge Co-Creation)とは、異なる立場や専門性を持つ個人・組織が協力し、新たな知識や価値を共同で生み出すプロセス を指す。これは、単なる情報共有ではなく、相互作用を通じて新しい知識を創造し、社会や組織の発展に寄与する活動 である。
この概念は、従来の「知識移転(Knowledge Transfer)」や「知識管理(Knowledge Management)」とは異なり、一方通行の知識伝達ではなく、共同で知識を発展させる双方向的・動的なプロセス を重視する点が特徴である。
2. 知識共創に関連する学問分野と主要テーマ
知識共創の概念は、多様な学問分野と関連している。以下では、知識共創に関わる主要な学問領域とそのテーマについて概説する。
2.1. 経営学・組織論:知識創造理論(SECIモデル)
代表的な理論:野中郁次郎の「SECIモデル」
●知識は「形式知」と「暗黙知」の2種類がある(Polanyi, 1966)。
●野中郁次郎(1995)は、知識創造が「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」の4つのプロセスを循環することで進行する と提唱した(SECIモデル)。
●企業や組織において、知識共創を促進するには、メンバー同士が経験を共有し、暗黙知を形式知に変換するプロセスが重要 である。
✅ 関連テーマ
●ナレッジマネジメント(Knowledge Management)
●オープンイノベーション(Open Innovation)
●組織学習(Organizational Learning)
2.2. イノベーション研究:オープンイノベーションと共創型エコシステム
代表的な理論:ヘンリー・チェスブロウの「オープンイノベーション理論」
●従来の「クローズドイノベーション」(企業内の研究開発)に対し、異業種・大学・研究機関と連携し、外部の知識を活用することでイノベーションを促進する手法(Chesbrough, 2003)。
●プラットフォーム型企業(Google、Appleなど)では、企業・ユーザー・開発者の共同作業によって新しい価値を創出する「共創型エコシステム」が形成されている(Jacobides et al., 2018)。
✅ 関連テーマ
●産学連携(University-Industry Collaboration)
●プラットフォーム戦略(Platform Strategy)
●ユーザーイノベーション(User Innovation)
2.3. 社会学・知識社会論:科学技術社会論(STS)と知識民主主義
代表的な理論:ブルーノ・ラトゥールの「アクターネットワーク理論(ANT)」
●知識は、特定のエリート層(科学者・企業)だけでなく、市民・地域社会・政策立案者といった多様なアクターが関与するネットワークを通じて形成される(Latour, 2005)。
●知識共創の視点では、科学技術の発展においても、専門家と市民が共同で議論し、新しい知識を作る「知識民主主義(Knowledge Democracy)」が重要(Nowotny et al., 2001)。
✅ 関連テーマ
●公共知識(Public Knowledge)
●市民科学(Citizen Science)
●科学技術と社会(STS: Science and Technology Studies)
2.4. 教育学・学習科学:協調学習と知識構築モデル
代表的な理論:スキャルブルとベレルの「知識構築共同体(Knowledge Building Community)」
●個人の知識構築ではなく、学習者同士が対話し、共同で新たな理解を深めることが教育の本質である(Scardamalia & Bereiter, 1994)。
●デジタル技術の発展により、オンライン協調学習(Collaborative Learning)が進み、知識共創の場としてのデジタルプラットフォームの活用 が広がっている。
✅ 関連テーマ
●コミュニティ・オブ・プラクティス(Community of Practice)
●デジタル教育(Digital Learning)
●アクティブ・ラーニング(Active Learning)
2.5. デジタル技術と情報科学:オープンサイエンスとAIの活用
代表的な理論:オープンサイエンス(Open Science)
●インターネットとデータ技術の進化により、科学研究の成果を公開し、世界中の研究者が共同で知識を発展させる「オープンサイエンス」が推進されている(OECD, 2015)。
●人工知能(AI)やビッグデータを活用し、人間と機械が共同で知識を創造する「人間・AI共創知識」の可能性も広がっている(Boden, 2016)。
✅ 関連テーマ
●ビッグデータ分析(Big Data Analytics)
●AIと創造性(AI and Creativity)
●オープンデータ(Open Data)
3. 知識共創の活用事例
3.1. 産業界での活用:オープンイノベーションによる製品開発
●トヨタは、サプライヤーや大学と協力し、新しいモビリティ技術を共創。
●Googleは、オープンソース開発を活用し、エコシステム全体でAI技術を進化させている。
3.2. 学術分野での活用:オープンサイエンスと国際共同研究
●COVID-19ワクチン開発では、各国の研究者がデータを共有し、知識共創によって短期間での開発が実現。
●欧州のHorizon 2020プログラムでは、多国間の共同研究を推進し、知識共創の枠組みを強化。
3.3. 地域社会での活用:市民参加型のまちづくり
●「スマートシティ」プロジェクトでは、行政・企業・市民が協力し、データを活用して住みやすい街を共創。
●日本の地方創生では、大学と地域住民が協力し、持続可能な観光や農業を知識共創の形で発展。
4. 結論:知識共創の今後の展望
知識共創は、単なる知識の伝達ではなく、異なる立場や専門性を持つ人々が共同で新たな価値を生み出すプロセス であり、社会全体の発展に貢献する。今後は、デジタル技術、AI、オープンサイエンスなどを活用し、知識共創の枠組みがさらに発展することが期待される。
特に、日本においては、産学官連携、デジタル教育、地域活性化などの分野で知識共創の概念を積極的に活用することが重要 となるだろう。